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一人はみんなのために、みんなは一人のために"One for all, all for one"



最新更新日 2023.10.23

委員長挨拶

慶應義塾に働くすべての皆様へ

 
 自由、平等、さまざまな権利・・・それらは、あたたかい陽がさすように、慈雨が降るように、心地よい風が吹くように、当たり前に私たちのもとにやって来たのではありません。人間はひとつずつ、少しずつ、戦ってそれらを勝ち得てきたのです。その際、多くの血が流されることもしばしばでした。
 「いつになったらコロナ前の状況に戻るのだろうか」、こんな言葉を私たちはいったい何度耳にしたことか。しかしながら、正直に認めねばなりません。コロナ前の状況は決して戻ってこないと。なぜなら、通り過ぎた時間は戻ってこないものだからです。
 「高度成長期の日本は今に比べてずっと希望があった、明るかった」という類の言葉もよく目にします。でも、忘れはいませんか。あの時代、各地で公害がひどくなり、空気も水も今よりずっと汚かったことを。軍備の拡大が盛んだったことを。でなければ、「1999年に人類は滅ぶ」といった予言を信じる者など誰もいなかったはずです。
 「老後が心配だ」「年金はどうなるだろう」、これは現在の日本で生活しているほとんどの人が抱いている不安でしょう。ですが、はっきり言わなくてはなりません。未来に不安がなかった時代など、いまだかつて一度もなかったはずだと。庶民が心配や苦労しないですむ時代など、人類の歴史の中に存在しなかったのです。
 私たちにできることは、またすべきことは、現実を直視し、どうすれば今をよくできるか、どうすれば未来がよくなるか、そのために何ができるのか、それを考え、行動することしかありません。
 いつの時代にも悩みは苦労があります。不満や不幸があります。リトマス試験紙が一瞬でぱっと色を変えるように現在や未来が明るくなることはありません。私たちは少しずつでもベターなものを愚直に求めていくしかないのです。
しかしながら、継続は力なり、です。諦めてはいけません。諦めるとは、諦めることをみずから決めたということ、悪い状況を認めて受け入れることにほかなりません。諦めないほうを選ぶこともできるのですし、そうすべきです。
 コロナ以降の先進国では、働く時間を減らす機運が急速に高まりました。今までの労働や幸福の概念に変化が生じたからです。また、世界中で物価が高騰し、経済が混乱して、人々を困惑させています。その結果、これまでの常識にとらわれない生き方を考える人が増えています。日本だけがそうした世の流れと無縁でいられるわけがありません。
我慢は美徳? いいえ、それは今の私たちだけでなく、未来の子孫のためにもなりません。工夫で乗り切れ? いいえ、それは破滅を先延ばしにするだけです。ベターなものを明確にイメージして追い求めねばなりません。
 自分の気持ちに余裕がないのに、余裕がある教育ができるでしょうか。自由でのびのびとした研究ができるでしょうか。患者の苦しみを分かち合えるでしょうか。自分を磨き高めることもできないのに、偉そうに説教を垂れることができるでしょうか。
 だから、着実に前進を。あらゆる分野で少しずつでも。何も変えないことを選んではならないのです。
 そして、できるだけ多くの人々が手を携えて。仲間を増やしましょう。


慶應義塾労働組合
本部執行委員長  許 光俊(法学部教授)

慶應義塾労働組合

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